大谷派の声明ＴＯＰ 日記履歴に戻る
| 音聲遣ヒニ六對アル事 | 『寸珍』より | |||||
| 柔キ冝 | 弱キハ悪 | ・ | 強キハ冝 | 剛キハ悪 | ||
| 静ナルハ冝 | 濕(シタタル)キハ悪 | ・ | 緩ナルハ冝 | 黏(ネバ)キハ悪 | ||
| 進ムハ冝 | 窄(セハシ)キハ悪 | ・ | 軽キハ冝 | 踈ナルハ悪 | ||
|
||||||
| 勤行に付いて心得の事 十二條 声明譜 |
|---|
調声の事 時所相応の調子を心得真行草の位を定め助音者に下知をなすなり 一、助音の事 調声人の調子を受け舒縮の下知に従いて音色の和を心得うべきなり 一、付膚の事 和かに付るなり尖（とがり）声を忌むなり 一、付膚者より先に声を出し又は声を残す事 勤行の舒縮又は調子の不和を下知するため調声人の所為に限るなり助音の者のなすまじきこと也 一、息継の間に津を啜る事 都ての音声の道に嫌うなり 一、身躰の事 腰をすえ気を張り慎て坐すべし 一、顔持の事 頭をすえ不仰不俯六尺斗り向うをみる心持にすべし 一、眼目の事 閉目して盲目の如くなるを忌む 一、両手の事 膝の上に軽く置くべし拍子をとり淘数をとるときは目だたぬ様にすべし 一、欠（あくび）の事 俯きて秘かにすべし 一、咳及び鼻をかむ事 調声及び讃口の間を慎み俯きて密にすべし 一、勤行の間心持の事 恭敬の心を主として音声節奏に心を止て勤むるを要す 以上 |
勤行に付いて心得の事 （解説） |
| 調声の事 時所相応の調子を心得真行草の位を定め助音者に下知をなすなり ここでは「時所相応の調子」という言葉と「真行草の位」というキーワードがでてきています。 「時所相応の調子」ということですが、「時」とは、晨朝（じんじょう）が「お朝時」日没勤行が「夕時勤行」「昏時（こんじ）」と言われるように、「時」自体が法要の種類を表していることがあります。また、蓮如上人以前は「六時礼讃」というお勤めを、１日に６回決まった時刻にしていたようです。 現在においては、逮夜（たいや）・晨朝・日中（にっちゅう）という一昼夜法要（いっちゅうやほうよう）のかたちになっていますが、時・時間の概念と法要の格とは密接な関係が存在するように感じられます。例えば、一昼夜法要の場合、逮夜・晨朝・日中では調子が異なってきます。逮夜や日中に於いて晨朝のような声の低い軽い調声をあげたり、晨朝時に、朝から高く張り上げた声で調声をあげても雰囲気に合いません。また、晨朝と言っても普段毎日の晨朝と法要時の晨朝とはお勤めの格が違ってきますので調声の調子も変わってくるでしょう。 「所」とは在家の仏間のような所から、本山のように広い大堂までいろいろですが、これもまた参詣人の多さなどによっても声の伝わり方が違ってきますのでその場所に似合った調子の調声をあげなければならないということでしょう。場合によっては屋外でお勤めをすることもあると思いますが、すべてこのような「時所」ということを考慮して、それに相応した調子の調声をあげることが望まれるのです。もともと声を調えると書くのですから、その調声の調子を助音者に伝え、わたしていくのが調声人の役目ではないでしょうか。 次に「真行草の位」ということですが、ここでは単に真四句目下、行四句目下をお勤めするということではありません。もともと、お勤め自体に真の位、行の位、草の位があり、法要の種類（法要の軽重）によって使い分けなければならないでしょう。 私たちは意識せず自然にこのような作業をしていると思うのですが、助音方がつく場合は特に、調声人ははっきりと「真行草の位」というものを意思表示して助音方に伝えることが必要です。よって如何なる勤行でも時所相応したお勤め・法要の格（軽重）に見合ったお勤めを皆一丸となってしていきたいものだと思います。 ここでは「下知（げち）」という言葉がでてきますが、この言葉は上から下に指示することを意味合いが強く、命令に近いニュアンスをもつ言葉です。この「下知をなす」ということは、現在においてはあまり使われない言葉でありますが、その言葉の意味するところは、お勤め全体の統括権をもつと同時に、その全責任を負うことを言わんとしているのでしょう。 最後に「調子」ということを補足しますと、音の高低、強弱、速度・リズム・拍子等様々な具合・状態を含めたの言葉であり、その「時所相応」ということを感覚的に捉えたそれら「調子」の加減をはかることによって「真行草の位」を決定することになりますのでその責任は重大です。調声とは、これらのことを心して行わなければならないことですので、勤行自体をよく理解した経験豊富な感覚が必要とされるものであります。 一、助音の事 調声人の調子を受け舒縮の下知に従いて音声の和を心得うべきなり 助音（じょいん）とは音を助けると書きますが、１句目の調声に対して２句目以降を助音と言う場合もありますし、その２句目から音を付ける人を助音ということもあります。そういう意味では内陣（ないじん）に出仕している方も外陣（げじん）に出仕されている方も共に助音といえると思うのですが、一般的には外陣方がその役の責任を担う傾向にあるために、助音と言った場合、外陣方を指して使われることが多いように見受けられます。 複数の人数でお勤めする時は、助音方は調声人の音（声）を助ける為にいると言えますが、「調声」即ち「時所相応の調子を心得真行草の位を定め」られた声（調声人の意）を、基本的にはそのまま受け継がなければなりません。 舒縮とは、舒（のび）縮（ちじみ）のことであろうが、声明的に解釈するならば単に節譜の長い短いということではなく、その舒縮は同時に真行草の位を表しているものと考えます。、調声の声が舒びたからゆっくりお勤めするんだな、ということではなく、これは重たいお勤めなんだなと受け止めないといけないと考えます。「調声人の調子」（声の高さ、声の張り具合、節譜のモチ方など）考慮し、しいて言うならば調声人の意とする「真行草の位」を察知して助音をつとめるのが本来の姿でしょう。 「音声（おんじょう）の和」とは、これまた難しい表現でありますが、調声の音に対して調和した声（音）を出しなさいという事を言っていると思われます。 例えばです。「音声の和」というものを考えるに、一般のお寺おいて報恩講や御遠忌などの重い法要に、住職が緊張して高ぶり、調声の声が高くなり過ぎたり、節譜の扱いが丁寧になりすぎてひどく延び延びの調声になってしまったとします。また低い声でいつものようにさらさらっと調声をあげてしまう事もあるでしょう。助音はその音（声）を無視して声を出せば、調声との調和はとれません。本来ならばその調声を受け、それに相応した（同じ調子の）声を出すのが助音の心得でしょうが、そのままその調子を受け継いだとしたら全体がだらだらしたものになったり、法要の格にふさわしいお勤めにはなりません。また、一人は高い声で付き、別の人は低い声で付いたら声が乱れ、一人はゆっくり重々しく、一人はさらさらとお勤めしたのではお勤め全体の声がバラバラで「和」が保たれることができずにおかしなものでしょう。 よってその時その時に合わせて、調声に対して調和をはかりつつ、尚かつお勤めの本来の格に近いものにしていかなければならないと考えます。勿論それが調声人の意とするものであれば、そのようなお勤めをするのが助音としての役目ですが、全体に滑稽なものになっては身も蓋もありません。あくまでも調声人の声を助けるという意味合いを忘れてはいけませんが、やはりお勤めをする全ての人で良い法要になるように心がけたいものであります。 本山においては調声について心得のある方ばかりですのでそのようなことはないのでしょうが。そういう意味では助音の人も時所相応の調子、心得真行草の位というものを熟知する必要があると言えるでしょうし、さらに言うならばそのようなことを熟知することが調声人を助ける本当の意味の助音となると言えるのではないでしょうか。本山には本山のお勤めの格があり、別院には別院の格があります。また地方地方においても地域によって格というものが存在しますので、調声と同じく豊富な経験と技術を駆使して助音をつとめる必要があるでしょう。 一、付膚の事 和かに付るなり尖（とがり）声を忌むなり 付膚（つけはだ）についても、１句目の調声に対して２句目の頭を指す場合と、付膚者といった人を指す場合があります。ここでは両者を指すことがらのようですが、助音と区別して特に付膚者の心得について書かれていると言ってよいと思われます。 本山において、あの広い大堂で隅から隅まで参詣の人に聞こえるようにお勤めしているのは外陣方（堂衆の方々）であります。その中でも一番首座の人（通常は堂衆１臈）が付膚の役を担い、調声の音（声）を受けて、先ず声を出します。その点において言うならば調声を受けてからお勤め全体を作っていく役目になりますので、調声人と同じく責任は重大であります。２臈以下の外陣助音方の人はその１臈の声を聞き、遅れず、先に出ず１臈の音（声）と同じ音（声）を出すように心得ていると思います。言い換えれば、調声人が「この声でいきます」と指示し、付膚者は、「では、この声で行きましょう」と他の人より先に声を出し（実際にはレイコンマ何秒のことですが）、他の助音の人に声を誘発させる役をもっているのが付膚者です。 そのレイコンマ何秒で助音の人は付膚者の声につける訳ですが、その付膚者が尖（とがり）声で荒々しく調声の声に付いたとしたら助音の人が声を出しにくいでしょうし、タイミングの悪い強引な付膚はややもすれば助音方の人は声を出すことができなくなってしまうことにもなります。さらには折角の調声がだいなしになってしまうことにもなりかねません。 私が初めて本山報恩講に出仕した時には菅生堂衆（１臈）でしたが、実に付け易い素晴らしい付膚でありました。私はたまたま、上手うしろに座ったのですが、菅生堂衆の声がはっきり聞こえ、初出仕の私でも気持ちよく声がだすことができました。 一、付膚者より先に声を出し又は声を残す事 勤行の舒縮又は調子の不和を下知するため調声人の所為に限るなり助音の者のなすまじきこと也 本山や別院の報恩講などの法要では大人数の准堂衆が集まってきます。堂衆の方と、准堂衆（自主参勤を含めると）外陣出仕は５０人くらいにはなるでしょうか。皆が好き勝手に声を出したり、我やさきと自慢げに大声を張り上げたり、私は高い声が出るから声を吊り上げてやろうとしたら、お勤めがまとまる訳がありません。皆の声が１つになってこそ素晴らしい声明になるのであって、一人一人技術が優れていても声がバラバラであっては全然意味がありません。その為には右の耳を使い付膚者の声をよく聞いて、それと同じ声を出す必要があります また、人の声というものは、疲れてきたりすると音が下がったり変化してしまいますので、今一度付膚者の声を確認するためにも、お勤めの最中にも上手の声を充分聞きながらお勤めすることに心がけたいものであります。そのような意味でも付膚者（上手）の声より先の声を出したり声を残したりすることは避けたいものです。しかしあまり早く声を止めてしまってはお勤め全体がブツブツに切れてしまいますので、あくまで声を残さないという心得をもつということを心がけたいものです。 一、息継の間に津を啜る事 都ての音声の道に嫌うなり 息継ぎの間に唾を啜る事、すべての音声の道に嫌うなり。 日常生活においても、口の中でくちゃくちゃ音をたてたり、大きな音でものを啜ったりすることはあまり行儀のよいことではありませんし、その音を生理的に嫌う人も多いと思います。 それでも、お経や正信偈を１人で読んでいる時にどうしても唾が溜まってくることがあります。息継ぎの間が少ないのでいつ唾を飲み込もうか考えるのですが、息継ぎをするのが精一杯でなかなか唾が飲み込めません。ここで唾を飲み込んでいたらリズムがくずれてしまうし、唾が口の中にいっぱいになってくるは、しまいに苦しくなってくるは、１人で大変なことになってきます。そこで１番してはいけないことが、息継ぎのついでに唾を啜ることです。一生懸命声をだしてお勤めをしている時に限って息継ぎの時に唾を啜ってしまうことになるので気を付ける必要があります。 唾を啜る音は小さい音のように思われますが、遠鳴りする音で意外と聞こえるものです。特に息継ぎの時は無音になりますので、少しくらい大丈夫だろうと啜ると他の人にとってはかなり気になる音です。ましては、勤行の最中、素晴らしい声でお勤めをしていても、息継ぎの度に唾を啜る音が聞こえてきたら台無しですので、このことも心得たいものです。 息継ぎをする場所はどのようなお勤めでもおおよそ決まっています。息継ぎをするべきでない場所で唾を飲み込んではお勤め（声）が切れてしまいます。お勤めの流れを止めずに、さらには音をたてずに謹んで行うべきでしょう。 一、身躰の事 腰をすえ気を張り慎て坐すべし 「腰を据え」るとは「身体の事」とありますが、内容からみるにここはお勤めに対する姿勢について言わんとしていると思われます。 お勤めの最中に、心ここにあらずで気持ちが落ち着きがなかったり、他ごとを考えたり、自分が今どこに座って何をしようとしているのか理解していないような心がまえではお勤めになりませんし、そのような心がまえで座っていては、それがそのまま座っている身体の姿勢にでてしまうことでしょう。また、身体がふらふらして落ち着きのない様は、後ろの参詣人から見ても変なものでしょう。 お勤めの心構えがしっかりしていれば身体もふらふらすることもなくなるでしょうし、腰をすえて座ることによってお勤めに対する心構えもしっかりし気持ちも落ち着いてくることでしょう。本堂で出仕している最中だけでなく、お勤め前に控室や後堂にいる時からどっしり腰を据え、心を落ち着けてお勤めに望む姿勢（心構え）が必要であると思います。 長時間正座をしていると足も痛くなってきますが、心得だけは忘れずにしたいものであります。 一、顔持の事 頭をすえ不仰不俯六尺斗り向うをみる心持にすべし 前項の「腰をすえ」と合わせて考えるに、心持の問題と体の姿勢（顔持ち）の問題と密接に関係していることがらです。腰をすえてしっかり座っていても心ここにあらずではきょろきょろしたり、他ごとを考えながら下を向いてごそごそしたり、ボーっと上を向いたり、全て心構えの悪さからくる行動です。 出仕してから輪灯の火が消えていないか、蝋燭は正常に燃えて消えそうでないか確認することはあるでしょうが、俯いたり仰向いたりすることはよくありません。きょろきょろ顔を横に向けるのは尚宜しくないことであります。やはり心構えからしても腰を据え、頭もしっかり据えて、（お勤めに対する姿勢、体の姿勢共に）お勤めに集中させたいものであります。 ６尺とは、１尺を３０．３センチとして１８１．８センチメートル、約２メートルくらい向うを見るのが良いことになります。勿論正座しての話で座高の問題もあると思いますが、まっすぐ向うを見るのではなく、少し顎を引いたくらいが声を出すにも調度良い顔持ちではないでしょうか 。 一、眼目の事 閉目して盲目の如くなるを忌む 初心のころは間違えないように一生懸命声明本を見てお勤めをしていたことでしょう。慣れてくると正信偈や念讃などは声明本を見なくてもお勤めができるようになると思います。この慣れてきたころが一番問題で、不注意による間違いが増えてくるものです。緊張感のなさからくる気のたるみや心構えのゆるみ、ふと目を閉じたらさらに眠気を誘い、うとうとしてしまうことにも成りかねません。居眠りのような状態でお勤めをすることを避けるためにも、しっかり目を開いてお勤めする必要があるでしょう。 一、両手の事 膝の上に軽く置くべし拍子をとり淘数をとるときは目だたぬ様にすべし お勤めにおいて、拍子をとりバランスのよいリズムにすることは重要なことであり、十淘や十二淘のような淘数の多いお勤めで正確に淘（ゆり）を数えることは大切なことであります。しかしながら、練習の時のように大きく手を膝に打ってみたり、おおげさに指を折って淘数を数えたりするのは問題があります。 手で節譜を書きながら節譜扱いをイメージさせたりすることは有効な教え方・練習方法でありますが、オーケストラの指揮者のように手を振り上げて節譜を書く必要はありません。 一、欠（あくび）の事 俯きて秘かにすべし 夜更かしをして晨朝にあくびがでるようではいけませんが、ここでは「あくびをしてはいけない」と言うのではなく「あくびをする時は目立たぬようにしなさい」と書いてあることは少し面白いことです。 しかし、勤行中にあくびをすること自体不謹慎で不作法なことであることは確かであります。しかも大きな口を開けてあくびをしていたら尚宜しくないことは言うまでもありません。あくびをするにも心得があるということです。ただ、読み間違えてはならないのは、決してあくびをしてもいいと言っているわけでもありませんし、あくびを噛み殺して密かにするということが作法ではないという事です。あくまで、どうしても出てしまった時の心得であると受け止めるべきでしょう。 一、咳及び鼻をかむ事 調声及び讃口の間を慎み俯きて密にすべし お勤めの最中に音をたてて鼻をかむというのはどうかと思うことでありますが、咳や鼻をかむ音は唾を啜る音などとは比べものにならない程大きな音がするものです。 調声（ちょうしょう）及び讃口（さんく）の間、自分の声を出していない時に鼻をかんでおこうと思う気持ちはわからない訳ではありませんが、休憩時間ではありませんので生理現象といっても慎むべきでしょう。 もともと調声や讃口の間は物音１つたてないようにするのが原則で、ゴソゴソ音をたてたりする音も慎むべきであるのに、鼻をかみ音をたてるようなことは以ての外です。咳が出そうになった時でも、調声や讃口のあがっている間は最大限の努力をして音を出さないようにするべきでしょう。 読経中に後ろでぺちゃくちゃ話しをしたり、お文の拝読中に拝聴もせずむやみに動いたりすることと同じくらい失礼なことですので、しっかりと動きを止めて音を出さないように心がけ、調声や讃口の妨げにならないようにすることが必要でしょう。 一、勤行の間心持の事 恭敬の心を主として音声節奏に心を止て勤むるを要す 以上 勤行に付いて心得の事十二条、最後の条です。前十一条（あるいは『声明譜』そのもの）を総括している条とも言えると思います。 もともと勤行とは仏徳賛嘆、うやまいつつしむことからはじまったことであることは言うまでもないでしょう。その恭敬の念を勤行という音や律動（リズム）として表現したものとも言えるでしょう。それゆえ勤行の音声節奏は素晴らしいものでなければならないものと考えます。 勤行自体は素晴らしいものであっても、それをお勤めする人がこのような心得がないとしたら、素晴らしいものが素晴らしくなくなってしまいます。いくら声がよくて、音楽的に優れたものを持っていても何の意味もありません。 勤行に付いて心得とは何々をしてはいけない・何々をしなければならないという言動におさまらず、その精神を伴うべきものであると考えますので、心のある、心得のある素晴らしい勤行にしていきたいものであります。 |