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マンション管理・相談事例等





1 最高裁判決(平成29年12月18日:理事の互選により選任された理事長の理事会決議
による解任)につい(項目一覧に戻る)

マンション理事長、理事会が解任可能 最高裁 (日本経済新聞:2017年12月18日)

 マンション管理組合の理事会が理事長を解任できるかどうかが争われた訴訟の上告審判決で、最高裁第1小法廷(大谷直人裁判長)は18日、「解任できる」との初判断を示した。
 多くの管理規約は理事会での解任の可否を明文化しておらず、他のマンションのトラブルにも影響しそうだ。【参考:マンション 判例百選 36】 参照



 第1小法廷は管理規約について「選任は原則、理事会に委ねられており理事会の過半数による解任も理事に委ねられている」との解釈を示した。「解任は無効」とした二審判決を破棄し、理事会の手続きに問題がなかったかをさらに検討すべきだとして、審理を福岡高裁に差し戻した。

 訴えを起こしたのは福岡県のマンション管理組合の理事長だった男性。2013年、男性が業務を委託する管理会社を変えようとしたところ、他の理事らが反発。「理事長は解任した」と住民に通知した。男性は解任は無効だと訴えていた。

 このマンションの管理規約は、「理事長は理事の互選で選ぶ」と定める一方で、理事会の判断だけで理事長を解任して単なる理事に「降格」させられるかどうかは明記していなかった

 一、二審判決は管理規約に定めがない点を重視し、「在任中の理事長の意に反して理事会が地位を失わせるのは許されない」として男性の主張を認めた。敗訴した管理組合側は上告し、「理事長を選任した理事会が解任もできるのは当然だ」と訴えていた。

 8割以上のマンションの管理規約は、国土交通省の「マンション標準管理規約」をひな型としており、今回と同じように解任について明記していないケースが大半とみられる。

 マンションの理事会では管理会社の選定や予算の使い方などをめぐってトラブルが起こりやすい。専門家によると、実務の慣行や学説では「解任できる」との考えが有力とされ、これまでも相談を受けた弁護士などが理事長解任を提案することが多かった。最高裁の判断が示されたことで、今後、理事長を解任しやすくなるとみられる。






【参考:マンション 判例百選 36】

理事の互選により選任された理事長の理事会決議による解任

最 高 裁 平 成 29年 12月 18日 第 一 小 法 廷 判 決

(平 成 29年 (受 )第 84号 :総会決議無効確認等請求本訴′組合理事地位確認請求反訴事件)
(民集 71巻 10号 2546頁 ′判時 2371号 40頁 ′判夕1448号 56頁)

弁護士 渡辺 晋(わたなべ すすむ



 事 実 の 概 要

(1) Y(被 告・控訴人=反 訴原告・上告人)は ,福岡県久留米市内にあるマンション (本件マンンヨン。平成24年 8月竣工)の管理組合であり,X(原告・被控訴人=反訴被告・被上告人)は ,本件マンションの区分所有者である。
 Yの 管理規約 (本件規約)には,次のとおり定められている。

 @管理組合にその役員として理事長および副理事長等を含む理事ならびに監事を置く (40条 1項)。 理事および監事は,組合員のうちから総会で選任 し (同 条2項 ),理事長および副理事長等は,理事の互選により選任する(同条3項 )。 理事長は,区分所有法に定める管理者 とする (43条 2項 )。

 A理事長は,必要と認める場合には,理事会の決議を経て,いつでも臨時総会を招集することができる (47条4項)。

 B組合員が組合員総数の5分の1以上および議決権総数の5分の1以上に当たる組合員の同意を得て,会議の目的を示 して総会の招集を請求 した場合には,理事長は,2週間以内にその請求があった日から4週間以内の日を会日とする臨時総会の招集通知を発 しなければならない (49条 1項)。理事長が同項の通知を発 しない場合 には,同項の請求をした組合員は,臨時総会を招集することができる (同 条2項 )。

 C役員の選任および解任については,総会の決議を経なければならない (53条 13号 )。

(2) 本件マンションでは,平成24年 8月に建物が完成して住戸の引渡 しがなされた後, まず平成25年 1月 に臨時総会が開催 されて役員 10名が選任 され,続いて同年 3月 の理事会で理事の互選 によりXが理事長に就任 した。 さらに同年 8月 開催の通常総会で新たに役員 5名が選ばれ、以降、役員はあわせて15名となった。

(3) しかるに,管理委託会社の変更をめ ぐってXとほかの役員の間で意見が対立 し,Xは ,理事会決議を経ることなく,平成25年 10月 10日 ,理事長 として管理委託会社の変更を議題 として臨時総会の招集通知を発出 した。

 これに対 して,同月20日 ,Xを除く役員 14名中11名(理事10名 ,監事1名 )が 出席して理事会が開かれ,理事10名の賛成によって,Xの役職を理事長から理事に変更 し,Xに代わる理事長 と してAを選任する旨の決議(本件理事会決議)が なされた。

(4) その後,平成26年 5月 18日 ,監事Bらを含むYの組合員65名 (組合員総数および議決権総数の5分の1以上)によって,XおよびAに対 して,本件規約49条 1項 にしたがって、Xを 理事から解任すること等を会議の目的 とする臨時総会の招集請求がなされた。Xは , この招集請求に応 じ,同 年6月 1日 ,本件規約49条 1項 に基づ き,理事長名義で会日を同月13日 とする臨時総会の招集通知を発送 したが、Bらは,Xによる招集通知は無効であるとして,本件規約49条 2項 に基づき臨時総会を招集 した。

(5) Bらの招集による臨時総会は平成26年 7月 5日 に開催 され,Xを理事から解任する決議がなされた (本件総会決議)。

(6) Xは ,Yに対 し,本件理事会決議および本件総会決議等の無効確認等 を求め,訴えを提起 した。

 原審 (福 岡高判平成28・ 10・ 4民集 〔参〕71巻 10号 2585頁 )は,@本件規約 40条3項は理事長の選任の定めであって解任の定めではな く,理事会決議によって理事長の地位 を喪失させることはで きないから,Xを 解任 した本件理事会決議は無効である, A Xが理事長 として適法に臨時総会の招集通知を発 した以上,Bらの招集による臨時総会は49条 2項の招集要件を欠いてお り,招集手続に瑕疵があるから,本件総会決議は無効であるとして,Xの請求を認めた。Yが上告受理申立て。


 判 旨

 破棄差戻 し。
「本件規約 は,理事長を区分所有法に定める管理者とし (43条 2項 ),役員である理事に理事長等を含むものとした上 (40条 1項 ),役員の選任及び解任 について総会の決議を経 なければならない (53条 13号 )とする一方で,理事は,組合員のうちから総会で選任し (40条 2項),その互選により理事長を選任する (同 条3項 )としている。 これは,理事長を理事が就く役職の1つと位置付 けた上,総会で選任された理事に対し,原則として,その互選により理事長の職に就く者を定めることを委ねるものと解される。そうすると, このような定めは,理事の互選により選任された理事長について理事の過半数の一致により理事長の職を解き,別 の理事を理事長に定めることも総会で選任された理事に委ねる趣旨と解するのが,本件規約を定めた区分所有者の合理的意思に合致するというべきである。本件規約 において役員の解任が総会の決議事項 とされていることは,上記のように解する妨げにはならない。

……これを本件についてみると,前記事実関係等によれば,本件理事会決議は,平成25年10月20日に開催されたYの理事会において,理事の互選により理事長に選任されたXにつき,本件規約40条3項 に基づいて,出席した理事10名の一致により理事長の職を解き,理事としたものであるから, このような決議の内容が本件規約に違反するとはいえない。」



 解 説

1 マンション標準管理規約
  マ ンシ ョン管理における法律関係を規律するための基本法は,区分所有法である。区分所有法には,区分所有者が全員で建物等の管理を行うための団体を構成することが確認的に定められたうえで、集会を開き,規約を定め、および管理者を置くことができると規定されている (3条前段)。

 もっとも,マンションの管理を円滑に行うには管理組合の組織や運営のための仕組みが必要だが,同 法には集会の決議によつて,管理者を選任し,解任することができると定められるだけで (25条 1項),ほかに規定は設けられていない。管理組合の組織や運営のあり方は,区分所有者の意思に基づく自治的規範である規約に委ね られている。しか し、マンション管理の専門的知識をもたない一般の区分所有者にとっては, 自治的規範としての規約を作成することは容易ではない。

 そこで,管理組合が規約を制定,変更する際に参考とすることがで きるように,国が,規約のひな形として,マ ンシ ョン標準管理規約 (以 下「標準管理規約」という)を策定し,公表 している。国土交通省の調査 によれば,調査対象1659の管理組合のうち,規約が標準管理規約に概ね準拠 している ものが74.5%、一部準拠 してい るものが12.9%と なっている (平成30年度マンション総合調査結果 〔データ編〕管理組合向け調査の結果155頁 )。 87.4%のマ ンシ ョンが,標準管理規約を利用 して規約を作成しているということになる。

2 役員の選任・解任に関する定め
  標準管理規約は,昭和 57年 1月 に中高層共同住宅標準管理規約として作成されてから,改正が繰り返されているが,平成28年 3月の改正前の標準管理規約には,「理事及び監事は,組合員のうちから,総会で選任する」(35条 2項 ),「理事長,副理事長及び会計担当理事は,理事の互選により選任する」(35条 3項 ),「 次の各号に掲げる事項については,総会の決議 を経なければならない」(48条柱書),「役員の選任及び解任並びに役員活動費の額及び支払方法」 (同 条13号 )と規定されていた (その後,35条 3項については,平成28年 3月 および令和3年 6月の改正によって条文が改められ,35条 2項については令和3年 6月の改正によって条文が改められ,48条 13号については,令和3年 6月の改正によつて号数が2号に変わっている)。本件マ ンシ ョンにおける本件規約40条 2項 ・3項 および同53条13号も平成28年3月の改正前の標準管理規約35条2項 ・3項 および48条13号に依拠して作成されたものである。

 マ ンション管理の実務において,理事長と理事会を構成する理事の意見が対立することはめずらしいことではない。理事会決議によつて理事長を解任できるかどうかの判断は,標準管理規約を取 り入れているマ ンションにおける理事会決議による事長解任の可否にかかわることから,本件 は広 く社会的な注目を集めることとなった。

3 本判決において最高裁が採用した考え方
  本判決において,最高裁は,理事会において理事の互選によって理事長を選任できる以上,理事長の解任もできるとするのが区分所有者の合理的意思に合致すると解釈し,理事会の決議事項に理事長の解任は明記されていないけれども,理事会において理事長の職を解いて別の理事を理事長に定めることは否定されないと判断した。

4 令和 3年 6月の標準管理規約の改正
  ところで,本判決の解釈は,明文によつて認められていない決議事項を決議できる権限を理事会に付与するものであつて,若千の疑義があることは否めない。90%近いマ ンシ ョンにおいて準拠 している標準管理規約において,明文に根拠のない規律を認めることはマンション管理のあり方として,適切とはいえない。

 そこで,国においては,令和 3年 6月に標準管理規約を改正し,理事および監事について,「総会の決議によって,組合員のうちか ら選任し,又は解任する」(改正後の標準管理規約35条2項)と定めるとともに,理事長の解任に関 しては,「 理事長,副理事長及び会計担当理事は,理事会の決議によって,理事のうちから選任 し,又は解任する」と条文を改めた (同 35条 3項 )。 本件における最高裁の判断を契機として,標準管理規約の条文に,理事会における理事長の解任権が明記されたものである。

5 まとめ
  マンシ ョン管理組合の理事長は,マ ンシ ョン管理組合の執行機関であり,理事会の意思を反映 してその職務を行うことが求められるが,理事会から信任されなくなることは職務の基礎が失われた状況 を生ぜしめる。 また,マ ンション管理組合における理事会は,株式会社 に
おける取締役会にあたる機関であるところ,株式会社では,代表取締役の解職は取締役会の職務とされている(会社362条 2項 3号 )。マ ンシ ョンの管理業務が,区分所有者の意思に基づいて,円滑かつ機動的に行われるべ きである以上は,理事長の解任を理事会の決議事項に含めるルールの設定が適切であることには,結論 として異論がないと思われる。

 ところで,マ ンションは,今ではわが国の住環境の重要な基礎を形作っているが,マンション管理組合における組織のあり方については,なお試行錯誤が続いている。本件は,直接には理事会における理事長の解任権が問題にされているが,本来は,単に理事会に理事長の解任権を認めるかどうかにとどまらず,マンション管理において,総会と理事会にどのような役割を分担させるかを,より根本の考え方から改めて考え直す必要がある。

 本判決を契機にして,マンション管理組合の組織のあり方について議論が深まることが期待される。